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映画感想『エル ELLE』私は傷跡じゃない

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エル ELLE

(原題:Elle)

 

ケチつけられた人生でも、

唾つけるのは、許さん。

 

監督

ポール・バーホーベン

キャスト

イザベル・ユペール(ミシェル)

ジョナ・ブロケ(ヴァンサン)

アンヌ・コンシニ(アンナ)

 

あらすじ

あるのどかな昼下り、ミシェルは自宅に侵入してきた謎の覆面男にレイプされる。警察に通報することなく、普段の生活に戻ろうとする彼女だったが、レイプ犯と思しき影は至るところに痕跡を残す。そのうちに、犯人は自分の身近にいるということに気づいたミシェルは、自ら正体を突き止めようと動き出す。

 

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「Elle」とはフランス語で「彼女」の意味だそうだ。これはまさしく「彼女」の物語だと思った。

ミシェルはあらゆる社会恐怖やジェラシー、コンプレックスの中心に立っているような人物だ。正面から生きていようと、永遠に周囲からの「腫れもの」としての眼差しを拭い去ることはできない。一度ケチのついてしまった人生だ。どれだけ時が経とうと彼女は社会の「負」の側面そのもののアイコンなのである。

 

身近な人間の中に犯人がいるというミステリー構成だが、犯人の正体を突き止めることに眼目が置かれていないのがこの映画の面白いところだ。むしろ犯人探しという形を借りて、ミシェルの人間関係の在り方、彼女自身の因縁と立ち位置のようなものを丁寧に縁取っているように見える。

この映画の犯人像は、倒錯した一種の愛憎のようなものを持っている。しかしそれを開き直って告白することもできずに、一方的に自分のタイミングで発散することを良しとしているような人間だ。これはミシェルが背負わされてきた父親の黒くひしゃげた影によく似ている。

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ミシェルの犯人との決着は何ともあっけない。壮絶な復讐をするわけでも、晒し者にするわけでもない。何なら後腐れないかのごとくあっさりと結末を迎える。相手を苦しめること、同じ目に合わせること、復讐として効果を持つのはそれらかもしれない。しかし彼女はそうしなかった。被害者にとっての悲劇が終わらないことは、その事件にまつわる全ての人間を永遠に繋ぎ止めておくことになると、彼女が一番よく知っていたからだ。ミシェルは、歪んだ影を切り離すことでピリオドを打ったのだ。

 

ミシェルが体にまとう歪んだイメージ。それはきっと彼女が生きている限り連れて回らなければならないものだ。しかし、彼女には向き合っている人々がいる。そこには愛情も怒りも悲しみも、あらゆる感情が今この瞬間に宿り続けているのだ。ただ倒錯に身を任せて、ミシェル自身と正面から向き合うことのできない人間は、彼女にはもう要らない。

 

 

映画『エル ELLE』公式サイト