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映画感想『ベイビー・ドライバー』リズムに合わせて、選べ

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ベイビー・ドライバー

(原題:Baby Driver)

 

向いた方に走る勇気。

 

監督

エドガー・ライト

キャスト

アンセル・エルゴート(ベイビー)

リリー・ジェームズ(デボラ)

ケヴィン・スペイシー(ドック)

 

あらすじ

子供の頃の交通事故の後遺症から止まない耳鳴りをiPodから流れる音楽で癒しているベイビーは、強盗を逃がすための専属運転手を生業としている。自らの流儀に則って完璧に仕事をこなすベイビーだったが、ダイナーでウエイトレスをしているデボラと出会ったことで逃がし屋稼業から足を洗うことを決意する。しかし、一度突っ込んだ片足はそう簡単には抜けるはずもなく…。

 


映画『ベイビー・ドライバー』予告編

 

 

 

 ※ネタバレは避けているつもりですが、終盤の展開を匂わせる描写をしています。

 

 

 

映画は24コマ/秒の静止画の連なりだと言うが、これはまさにそんな「瞬間の積み重ね」の映画だと思った。

エンジンをかける。ギアを入れる。アクセルを踏む。ハンドルを切る。ガラスを割る。洗濯機が回る。銃をぶっ放す。それらのアクションひとつひとつにベイビーの聴く音楽のリズムが重なり、映画の中を縦横無尽に走り出すのである。小回りとスピードを活かしたカーアクションに矢継ぎ早な編集のテンポがマッチしているのも気持ちがいい。

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 とにかくキャスティングが冴え渡っている映画だとも思った。一瞬画面に映るだけでも強い印象を残す濃ゆい面子でありながらも、それぞれどこか掴みどころのないような独自の雰囲気を醸し出している。複雑な人間像というより、まるで信号が点滅するようにコロコロと表情を変えるのだ。

状況が変われば人間性も変わっていくのは当然と言えば当然だが、それに一貫性を持たせているというより、全く異なった側面が同時に一人の人間の中に存在している描かれ方をしているように見えるのである。それがこの映画の怖さであり、同時に優しさでもあるように思える。

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ベイビーがイヤフォンで聴いている音楽は亡くした両親と彼自身を繋ぎ止めるものであるが、それが彼の幼児性や内向性を示すアイテムとして置かれているだけのものではないところも好きだ。ベイビーが他者とのコミュニケーションに至るきっかけには音楽が関係していることが多いし、音楽を通すことで彼は他者と人間的なシンパシーを得ることも成し得ている。

それに、意味づけや象徴より何より先に、音楽はベイビーにとって紛れもなく「好きなもの」なのだ。そこにとても共感を覚えた。

 

 

「瞬間の積み重ね」という意味では、ベイビーはいつも「一瞬の選択」にさらされ続けている。逃がし屋という仕事もそうだが、右か左か。やるかやめるか。とても選択肢には落とし込めないような問題でさえも瞬時に判断を下さなければならないシチュエーションに一も二もなく放り込まれる。

たとえそれが矛盾を抱えたとしても、一度走り出した音楽には絶対に乗らなければならない。その時、その瞬間のリズムを逃すことは許されない。彼の生きている世界観では、自らの思想や信条を貫き通すことではなく、向いた方向に脇目も振らずアクセルをベタ踏みすることだけが強さなのである。思い返せばこの映画のアクションシーンにおけるカタルシスも、直線上をまっすぐ突き進む描写に置かれている場合が多かったようにも感じられる。

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守られることを約束された時間を持たない彼には、自己実現より何より、目の前の「一瞬の選択」を積み重ねることでしか彼自身の人生を変えることは叶わないのだ。

 

 ベイビーにとっての最後の敵も、彼自身が生み出した縁と、一瞬の選択によって生まれた因縁が作り出した存在だ。失った者と守る者。最後の火花散る「対決」が彩るのは、行き着いてしまった因縁の果てに突っ込んでいく覚悟同士のぶつかり合いであったように思える。

 

 

ラスト付近で、ベイビーが肌で感じた振動。それは彼が何度も繰り返し感じてきたものだったからこそ、彼には聴こえるのだ。彼の積み上げてきた一瞬は、消えることのない大きな時間の流れになっていくのである。

矛盾と混沌を受け入れる強さを持っている二人にとって、これから続いていくイメージのひとつひとつが色付いたものになることを願ってやまない。

 

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映画『ベイビー・ドライバー』オフィシャルサイト|ソニー・ピクチャーズ