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ロクでもナイズドスイミング

映画の感想を書きます

映画感想『暗黒女子』この映画が闇鍋だ

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暗黒女子

 

作り手と観客のいたちごっこを

死んだ目で眺める彼女たちに幸あれ。

 

監督

耶雲哉治

キャスト

飯豊まりえ(白石いつみ)

清水富美加(澄川小百合)

千葉雄大(北条先生)

 

あらすじ

聖マリア女子高等学院でカリスマ的存在だった白石いつみが謎の死を遂げた。手に一輪のすずらんの花が握られていたことから噂が噂を呼び、いつみが所属していた文学サークルのメンバー五人に疑いの目が向けられる。そんな中、文学サークルで「白石いつみの死」をテーマとした作文の朗読会が行われ、五人の作文はそれぞれ違った犯人像を告発しはじめる。

 


『暗黒女子』映画オリジナル予告編

 

 

 

いちファンとして清水富美加の公開待機作をすべて見るという苦行を自らに課しているのですが、その第一弾です。

 

 

原作が有名な「イヤミス(イヤな気分になるミステリー)」なので、当然胸糞の悪い結末が待っています。ストーリーとしては覚悟していても「げげっ」と思ってしまうほどの強烈な幕引きです。

それでもある程度さわやかな気持ちで「いやー、やなもん見た」と劇場を後にできるのは、この映画の「どっかで見たことのある女優が悪女っぽいコスプレ演技をしている」というメタ構造と、多分物語の意味も監督の意図も超えたところにある女優陣の破壊力にあると思います。

 

「美少女」という商品価値からカリスマ的存在であること、はたまた等身大であることを強要されることが多い若手女優という稼業ですが、一方で意識の高い作り手たちはしばしばその着せ替え人形を泥水にくぐらせたりして楽しみます。

少女たちはみんなの理想としてのイメージを背負わされては、Sな作り手がそれを破壊して、のいたちごっこの始まりです。

 

行き着くところまで行ったのがこの映画だと思います。共感できるレベルとしての悪女演技が、後半につれて許容できる範疇を超えていき、ラストでドン引きさせたら勝ち!みたいな。しまいには「女子高生というだけで価値がある」とかセリフで言い出す有様です(言い回しは違うかも)。

 

しかし、実際に「少女」を演じている少女たちはといえば、制服を異物のようにまとい、繊細さどころか「いっちょやったろやないか」と言わんばかりの仕事人の目をしています。終結に向かって役の上での関係は壊れていくのに、むしろ役者同士は共謀関係のようになっていきます。もうこれは監督の手には負えてないだろうと。それくらいに個々の地力が強いです。

 

観客も監督も置き去りにして牙をむいた女優たちの顔には少女性なんて一切感じません。これからそれぞれがどんな道を歩むのかわかんないけど、つまんないところにいつまでも居ないで、好きなところに行って好きなことしたらいいよ!制服なんて焼き捨ててしまえ!ファック!

 

というような謎の高揚感を感じるエンディングでした。 

 

 

 

映画感想『ナイスガイズ!』骨折り損のくたびれ探偵

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ナイスガイズ!

(原題:The Nice Guys)

 

俺たちだって、

たまには勝つ。

 

監督

シェーン・ブラック

キャスト

ライアン・ゴズリング(マーチ)

ラッセル・クロウ(ヒーリー)

アンガーリー・ライス(ホリー)

 

あらすじ

腕っぷしの強い示談屋ヒーリー。妻に先立たれたべろべろ探偵マーチ。一人の少女の失踪事件をきっかけに引き合った二人はひょんな事からコンビを組むことになる。さらにはマーチの一人娘ホリーも捜査に首をつっ込むが、実は事件の裏には国家の陰謀がからんでいて…。

 

m.youtube.com

 

↑この予告編だけでフゥ〜!となった人はもう絶対アレなので見てください。

※ネタバレ無です、多分。責任は取れません。

 

 監督は「リーサルウェポン(1987)」などの脚本を担当したバディ(相棒)ムービーの名手、シェーン・ブラックです。

今作「ナイスガイズ!」はシェーンブラックお得意の凸凹バディもので、70年代のLAを舞台にノリノリのディスコサウンドに乗せて事件の謎を追う、痛快アクションコメディです。

などと知ったかぶりで語っていますが、正直なところ「リーサルウェポン」を始めシェーンブラック作品は一本も見たことがないので、セルフパロディとか言われてもぶっちゃけよくわかりません。見てから書けよ、って話ですが。

でも、知らないはずなのにどこか実家のような安心感があります。無駄な暴力。無駄なおっぱい。割れまくる窓ガラス。前置きなしで急にしんみりするところとか。つけっぱなしのテレビが昼頃に流す映画の気風というか。それらは多分影響を受けた2世3世であって、きっとこれがパイオニアなんだろうなと見てて思いました。「シェーンブラック印のバディ映画の復活だ!」とか言われてるのを見てちょっと気が引けてたんですけど、前知識ゼロでも全然楽しめました。ていうか、めちゃくちゃ楽しかった!

 

 

 

さて、ライアン・ゴズリング演じる、飲んだくれのダメダメクソ探偵マーチ。

f:id:wakaieriku:20170301235504j:plainやれやれだぜ

甘いマスクの演技派俳優が突き抜けたコメディ演技に挑戦、とだけ聞くと夕日の向こうでラジー賞が手を振ってる感じですが、そこはさすがのラ・ラ・ライアンゴズリング。本人の何でもこなす芸達者ぶりと飄々とした居ずまいが、このマーチというダメ人間にどこかかわいらしさを持たせています。現実でやったらタコ殴りものの失敗も、マーチがやらかすと「んもう、しょうがないなあ」という気持ちになってしまいます。※個人の感想です

f:id:wakaieriku:20170302170437j:plainキャー

あと、やっぱりライアンの作品選びの審美眼はパナいなと。

 

 

ラッセル・クロウ演じる、何でも腕力で解決の示談屋ヒーリー。

f:id:wakaieriku:20170302232942j:plain骨折るど

お前、どした!?ってくらい肥大化したラッセルクロウが鈍い動きで暴力をふるいまくります。このヒーリーというキャラ、行動原理がよくわからないというか、倫理を説いたかと思えば必要悪ぶったり、なかなかふわふわしています。でも、そこも含めた存在の不条理感が70年代のLAのカオスな雰囲気に何ともマッチしていて、「その時代と土地を代表する男(ビッグリボウスキからのハンパな引用)」感を醸し出していて良いです。

 

 そして、アンガーリー・ライス演じる、マーチの一人娘ホリー。

f:id:wakaieriku:20170303013235j:plainパパは世界最下位なんだから

初めて見た女優さんですがとても良い。ライアンゴズリングと相性がよくて、ちゃんと親子に見えるというか。ちょっと「ペーパームーン」っぽいんですよね。ソフィアコッポラの新作にも出ているらしいので、今後の活躍に期待大です。

f:id:wakaieriku:20170303182237j:plain友達みたいな親子

あと、個人的に子供が車を運転する展開がわりと好きなんですが、宣材に出てきたホリーの運転シーンが触り程度の描写しかなかったのが少し残念。何を書いてんだ俺は。

 

では、他の面々をダイジェストでどうぞ。

f:id:wakaieriku:20170303165500j:plainドーン!

f:id:wakaieriku:20170303165554j:plainパーン!

f:id:wakaieriku:20170303165604j:plainドンドンパーン!

はい、クセが強くて最高ですね。

 

日本でバディものというとやっぱり文字通り「相棒」を思い浮かべますが、あれが基本的に「性格に難のある天才と、凡人だからこその視点でサポートする相方」という相互扶助の関係で名コンビになっているのに対して、

マーチとヒーリーは特にお互いの不足を補い合うといったことはありません。それどころか迷惑をかけ合うわ足を引っ張り合うわで、ダメの2乗でダメになっているような有様です。

でもその、利害関係とか技能とかじゃなくて、負け犬同士が互いに何となく目をかけているから一緒にいるみたいなバランスがとても好きです。ホリーも入れたこの三人を、こいつらずっと見てたいなと思える。それ以上映画に求めるものなんかないじゃないすか。ね。

 

脚本上のギミックも心地いいです。殺人バチとかニクソンとか嗅覚とか。意外なところがのちのちに利いてきたりするおもちゃ箱的な演出が楽しい。

あと、パーティ会場を真上から空撮するシーンがあるんですけど、カメラがぐーっと横に移動していった後、パッと向きを上げてLAの夜景を一瞬映してからパーティ内のシーンに切り替わるんですよね。そのせいで若干繋がりがおかしくなってるんですけど、そこが何か「ついでに夜景も見とけよ」って言われてるようで、こっちとしても「気が利くじゃん!」って気持ちになるというか。その融通が利く感、わかってくれてる感がこの映画の魅力の一つなんだろうなって。

 

 とにかく、見終わった後「あー、面白かっ…た!」とそのままイスごと引っくり返れる映画です。はい。ニュアンスで受け取ってください。

果たして飲んだくれと腕力と子どもで国家に立ち向かえるのか。もう公開終わりそう!見てない人は急いで劇場へ!

 

映画「ナイスガイズ!」公式サイト

 

好きな「LAダメ男」映画。そんなジャンルあるのか知らないけど。

 

 

映画感想『グリーンルーム』殴られるのが怖くて悪口が言えるか!

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グリーンルーム

(原題:Green Room)

 

最低な感触を、

僕らは目指して。

 

監督

ジェレミー・ソル二エ

キャスト

アントン・イェルチン(パット)

イモージェン・プーツ(アンバー) 

パトリック・スチュワート(ダーシー) 

 

あらすじ

売れないパンクバンドが興行で赴いたライブハウス。そこがネオナチの巣窟だと知った一行はその場のノリで「ネオナチはパンクやんな」と歌い上げる。出番の後、殺人現場を目撃してしまったことから楽屋に閉じ込められた面々は、袋のネズミの状況でネオナチ軍団との死闘を余儀なくされていく。

 

www.youtube.com

 

 

 

タイトルのグリーンルームは楽屋とか控え室を指す言葉らしいです。もっともこの映画の中では本当にグリーンなルームなのですが、それが苔というか何というか、若干の有機物感を醸し出していて他にはない独特な印象を受けます。

 

昨年の7月に、思い出すのも嫌ですが、事故で27歳の若さで亡くなった俳優アントン・イェルチンの最後の主演作です。

彼の出演作を全て見たわけではないのですが、2015年公開の「君が生きた証」という映画が本当に好きで、その中でアントンが演じた役にものすごく思い入れがあっただけに、訃報を聞いた時はちょっとショックを受けすぎてしまって、去年の夏ごろは半分廃人のようになっていました。

f:id:wakaieriku:20170225155743j:plainあ、神っていないんだ、って

 

始めにことわっておきますがこの映画、かなりのバイオレンスムービーです。人体破壊を始めとした苛烈なゴア描写など、油断しているとかなりの地獄を見ることになるので、耐性のない方が見る場合はそれなりに心しておいてください。

f:id:wakaieriku:20170223215840j:plainこんなポスターもあることだし

 

 

 

明確な定義は知りませんが、パンクは「労働者」の音楽だと勝手に思っています。世界平和がどうとか以前に、今自分たちの目の前にある理不尽や矛盾に対して、本来社会の中では発言する権利すら与えられていないような人たちが音楽という手段を借りて牙を突き立てる。そのエモさが何よりの魅力だと(個人の見解です)。

自分たちがこれから演るハコがネオナチの根城だと知って、彼らは条件反射的にネオナチdis曲をセットリストに入れます。パンクは反体制の音楽なんだから、右翼がパンクやってんじゃねぇぞ、と。しかしステージに上がって実際にアウェイで演奏を始めると明確に状況が変わっていきます。感覚として「逆鱗に触れてしまった」という。ここら辺の描写が上手いです。

f:id:wakaieriku:20170225173639j:plainそりゃこうなるわ

相手方がアップを始める中で主人公サイドは成す術がありません。だって敵のホームなんだから。音楽を取り上げられた彼らにもう発言権はないのです。

 

この映画の脚本、何というか温度が低いです。主人公たちに特別思い入れがあるような描かれ方もしておらず、ネオナチ側の都合とかも深く掘り下げられません。伏線なども、さりげなくというよりむき身でゴロンと置かれています。

そして何より、今作は痛覚に鈍感です。かなりの致命傷を負ってもその下りが終わると傷だけが残り、そこの痛みはなかったことになります。死ぬときも痛みなく虫ケラの如く死んでいくので、普通に見てても「あれ、いつ死んだ?」とよくなります。

そうした中で、段々と生存しているか否かが最重要事項になっていきます。いつだってそうだろって、まあそりゃそうなんですが。とにかく生き残る。死ぬ気で生きて、帰る。それだけを目的に動くようになります。脇道には逸れません。

 

 

 

それだけ聞くとものすごく単純化された無感情な世界のようにも思えますが、その中でのみ見えてくる若い役者たちのむき出しの存在感が、この映画の「ダウナーなのにエモい」という不思議な特性を生み出しています。とにかく役者のアンサンブルがすごい。

全員の画像は用意してないですが、それぞれ本当に’’いい顔’’してます。

 

グリーンルームの中で出会うアンバー役のイモージェン・プーツ

f:id:wakaieriku:20170225172314j:plain半ば諦めてる顔

イモージェンプーツはとにかく作品ごとに印象が全く違うので圧倒されますが、何かこう、この佇まいにヘタな自分語りとか要らないな、という感じです。

 

そして、パット役のアントン・イェルチン

f:id:wakaieriku:20170225173629j:plain嫌な予感を感じています

照明のせいなのかわかんないけど、やたら顔が白いです。イモージェンプーツと並ぶとすごい白い。戸惑った表情が上手いのもそうですが、アントンのかすれたようなよく通る声がこの映画にとてもよく合っています。

 

 

 

空間をきちんと描いているところも良かったです。どこに行ったら何があって、どこが通れないみたいのが、映画を見ていてちゃんとわかります。逃げ場がないということが観客に実感として伝わってくる。

何か味気ないという意見もわかりますし、僕の思い入れが強すぎるというのも多分にあります。それでも、ゴアがわりと平気で、なんとなくスルーしようと思っていた人にはぜひおすすめです。

ラスト。僕はちょっと泣きました。

f:id:wakaieriku:20170225180440j:plainこういう些細なシーンがたまらないです

 

映画『グリーンルーム』公式サイト|2017年2月11日(土)公開 

 

 語り継いでいく限り消えない

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映画感想『ラ・ラ・ランド』見る夢と叶える夢

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ラ・ラ・ランド

(原題: La La Land)

 

夢は覚めるとわかっているなら、

せめて今だけ、

タップシューズに履きかえて。

 

監督

デイミアン・チャゼル

キャスト

エマ・ストーン(ミア)

ライアン・ゴズリング(セブ)

 

あらすじ

夢追い人が集う街、ロサンゼルス。女優を目指すミアとジャズピアニストのセブは運命的な出会いをし、恋に落ちる。互いの夢を応援する二人だったが、少しずつすれ違っていき…。

 


「ラ・ラ・ランド」本予告

 

↑この予告編ですが、見せ場をちょっと出しすぎだと思うので、ネタバレ嫌な人は注意。

この記事も一応若干の※ネタバレ有なんですが、未見の人向けに書いてるつもりなので、良ければどうぞ。

 

 

 

今年度アカデミー賞13部門14賞ノミネートということで、もはや公開前から言わずと知れた感じになっていましたが、ついに公開です。

 

監督は2014年の「セッション」で映画界に衝撃を与えた新鋭デイミアン・チャゼル

「セッション」で「スパルタ教育は才能を潰す」という至極当たり前だけどわかっていない奴が多いことを声高に示してくれたので、個人的にチャゼル監督は信頼しています。

f:id:wakaieriku:20170224193912j:plainファッキンテンポォウ!

 

しかし、色んな人に「音楽の楽しさをわかってない」とか散々叩かれたチャゼル監督は、次に「いや俺音楽大好きだし!」という意思表示として音楽の喜びが詰まった宝石箱のようなミュージカル、「ラ・ラ・ランド」を撮ったわけです(想像)。

f:id:wakaieriku:20170224194855j:plain天にも昇る気持ち

 

最初に「ラ・ラ・ランド」というタイトルを聞いたときはバカなんじゃないのかと思いましたが、「LA LA LAND」というのはロサンゼルス(LA)の俗称らしいですね。ロサンゼルスは女優やミュージシャンの卵が集まる街なんだとか。確かにハリウッドもあることだし。

f:id:wakaieriku:20170224195709j:plainこういうとことは別の地域なんでしょうね

 

 

 

この映画は基本、LAで繰り広げられる女優を目指すミアとジャズピアニストのセブの恋物語を軸に進んでいきます。

 

エマ・ストーン演じる女優の卵のミア。

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 エマストーンはすでに大女優なのですが、女優になりたいとガツガツしてる人にちゃんと見えるのがすごいです。オーディションでの泣く演技のなんとなくクドい感じとか、絶妙です。

このミアという女性、よく愛想笑いをします。悲しい時も、怒ってる時も、人前では必ず笑ってごまかします。そこにミアが今までどんな人生を送ってきたかが垣間見えるような気がして、何とも切ない気持ちになります。

それでいて、本当に嬉しい時や幸せな時は作った笑いとはまるで違う笑顔になるもんだから、もうどうにも応援せずにはいられなくなってなってしまいます。

 

そして、ライアン・ゴズリング演じるジャズピアニストのセブ。

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 古き良きジャズに絶対のこだわりを持っていて、ジングルベルを弾かされたり電子音とコラボすることに抵抗を感じたり、ミアに長々と自分のジャズ論を聞かせたりします。どこか「マッサン」を思い出しました。

f:id:wakaieriku:20170224204023j:plainわかる人だけわかればよろしい

 

しかし、そうは言ってもこのセブ、かなりできた人間です。イヤイヤながらも気の進まない仕事をちゃんとやったり、サプライズで料理を作ったり、とても「俺いつかは自分の店を持つんだ」と言ってる夢追い男子とは思えません。ちゃんとしてます。

そして何よりスペックがライアンゴズリングなんですから、もう100億点です。

余談ですが、どう見てもライアンがピアノを弾いているとしか思えないカットがあるなと思ったら、本当に弾いてるらしいです。3カ月猛練習したそうです。とんでもないなこの男は。

 

 

 

そして、ここに関して異論はないと思いますが、この映画の見所は何と言ってもクオリティの高いミュージカルシーンです。矢継ぎ早に繰り出されるカラフルな美術に極上の音楽。長回しの多いカメラワークで、歌って踊って跳んで回って。次にどこから何が飛び出すのか、1秒先も予測できません。もう本当に、これぞ映画だ!という感じです。特に初っ端の高速道路でのワンカットは凄まじく、気を抜いて見てたら度肝を抜かれました。こればっかりは劇場でその目で確かめてください。

ひとつひとつのシーンに元ネタの映画があるそうなのですが、そんなん知るかという感じなのでスルーします(ブギーナイツの飛び込みシーンだけはわかった)。

f:id:wakaieriku:20170225000921j:plainこの人の背中が良いんですよね。誰だか知らんけど。

 

チャゼル監督は元ジャズドラマー志望だっただけに、この映画、とてもリズムがいいです。盛り上がったシーンのリズムを殺さずに次のシーンに繋げていくあたりには編集の妙を感じます。個人的に映画のキモは編集だと思っているので、これだけ画力のあるシーンをぶつ切りにならずに一本の映画としてまとめ上げたチャゼル監督と編集のトム・クロス(「セッション」に引き続き)は本当に名采配だなと実感しました。

 

それでいてやっぱり、監督自身が夢追い人に対してすごく思い入れがあるんだろうなと。甘い時間が引き立つのは、奥底に苦味があるからです。夢が叶うということは、その夢がもう見られなくなることも意味します。

 

この映画に不満がないわけではないんですが、見に行った地元の映画館がわりとガラガラだったことに驚いたので、とりあえず一人でも多くの人に見てもらいたいなと思い、このブログを書きました。何十年後かに劇場で見たことを自慢できる一本になることは請け合いです。

 

ララランドで巻き起こる極彩色の夢の顛末。最初の一秒から最後の一秒まで、目に焼きつけてきてください。

 

映画『ラ・ラ・ランド』公式サイト

 

ラ・ラ・ランド-オリジナル・サウンドトラック

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映画感想『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』ぶっ壊れて、それから

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雨の日は会えない、晴れた日は君を想う

(原題: Demolition

 

妻が死んだ。

これっぽっちも泣けなかった。

そこから壊れはじめた。

 

監督

ジャン=マルク・ヴァレ

キャスト

ジェイク・ギレンホール(デイヴィス・ミッチェル)

ナオミ・ワッツ(カレン・モレノ

ジュダ・ルイス(クリス・モレノ

 

あらすじ

銀行員のデイヴィスは自動車事故で妻を亡くすが、周りの反応とは裏腹に涙を流すことさえできない。妻の死に対して無感覚な自分に気づいたデイヴィスは、あらゆるものを破壊する「ぶっ壊れた男」になっていく。

 

 

m.youtube.com

 

ライトノベルみたいな邦題(一応本編には関係あるのですが)、去年公開の邦画永い言い訳に酷似した設定など、公開前から何かと話題の絶えない映画でした。

映画『永い言い訳』公式サイト

 

 

  

芸能一家のサラブレッドで

没入型カメレオン俳優、ジェイク・ギレンホール の主演最新作ということですが、

f:id:wakaieriku:20170223123830j:plain同一人物です

 

ここ何作かのほとんど怪物みたいな存在感に比べて、今作では比較的ナチュラル(?)な姿を見ることができました。

それでいて、彼のマネキンのように整った顔立ちと異様な目力が「壊れかけ」という設定に理屈抜きに説得力を持たせています。そして観客は、デイヴィスという男の無機物めいた佇まい破壊行為を通した感情の発露との間で「結局こいつはどこまでネジが飛んでいるのか」と揺さぶられることになります。

少なくとも僕はそうでした。

 

そもそもこの映画、役者たちが軒並みすばらしいです。

何となく危うさを感じさせるシングルマザー、カレン役のナオミ・ワッツ

f:id:wakaieriku:20170223133451j:plainくたびれ感がハンパじゃない

 

ワケあって停学中のカレンの息子、クリス役のジュダ・ルイス

f:id:wakaieriku:20170223134324j:plain守りたい、このクソ生意気

 

デイヴィスのイカれ具合に振り回される義父、フィル役のクリス・クーパー

f:id:wakaieriku:20170223135805j:plain何でこんなことになっちゃったんだろね

 

そして亡くなった妻、ジュリア役のヘザー・リンド

f:id:wakaieriku:20170223141852j:plain罪悪感を感じさせる表情

 

みんな演技が上手いのはもちろん、それぞれがまとう悲しみのオーラみたいなのが映画全体に作用して、微熱のような「何となく具合が悪い感じ」を作り出しています。

とはいえ、画面は明るくきれいで、テンポも早くさくさく進んでいくので、そこまで陰惨な印象は受けません。

デイヴィスが陥る世界は、今まで見えていなかった疑問や好奇心にあふれた「小学生の視点」であり、やりたいことを自制せずにやる、いわば「学校をサボっている時間」なわけですから、むしろどんどんハイになっていきます。

そんな中で出会ったシングルマザーのカレンとその息子、クリス。

教育や大人の事情に疲れて心を閉ざしているクリスに、教育に悪いブロークンおじさん・デイヴィスが歩み寄っていく。この二人が手を組んでともに「結婚生活を破壊する」シーン、ドン引き必至ですが文句なしにアガります。 

 

f:id:wakaieriku:20170223161244j:plainバーン!

 

f:id:wakaieriku:20170223161348j:plainガシャーン!

 

f:id:wakaieriku:20170223161514j:plainズンズンズン

 

この先、核心には触れませんが「雨の日」「永い言い訳ともにうっすら※ネタバレ有です。

 

 

 

 

 

 

 

さて、たびたび似ていると言われる「永い言い訳」ですが、この映画のデイヴィスと「永い」の幸夫は全く違うタイプの人間だと思います。

f:id:wakaieriku:20170223163910j:plain呼んだ?

 

幸夫は、妻の死を悲しまない自分を認められない人間でした。自分は不器用だけれど根は善人で、人を救う力を持っていると誰かに認めてもらいたくてしょうがない。

他人にどう見られているか、自分は社会でどの位置にいるのか。どんなに周りの環境が変わってもその思考から抜け出せない幸夫が、初めて本当に、自分が薄情で根っから腐りきっていると認めることで他者と向き合えた。そこで「永い言い訳」は終わっていました(あくまで僕個人の解釈です)。

それとは逆に、デイヴィスは自分のことが考えられない人間なんだと思いました。妻が死んだことに悲しみを感じない自分。妻と自分の間につながりはあったのか。自分と世界はつながっているのか。周りを分解し、破壊することで自分を模索しているようにも見えました。

f:id:wakaieriku:20170223172609j:plainキミとは全然違うんだよぉ

 

 

 

昔、この映画と同じようなストーリーラインを妄想したことがあります。周りを破壊することで自分を知ろうとする人の話。しかし、「破壊」の後に一体人間はどこに行き着くのか。その答えを出すことが僕にはできませんでした。

 

「破壊」の反対は「再生」なんだろうか、とよく考えます。

完全に壊れてしまったら元通りはおろか、新しく生まれ変わることすら難しいはずで、そうなったらもう壊れ物として生きていくしかないだろうと。

 

この映画のラストはその答えを出してはいないと思います。

デイヴィスは元の生活に戻ることもできず、妻との思い出を断ち切らずに、むしろすがったまま終わっていきます。子供じみたまま。壊れたまま。

この先の彼の未来に不安を感じざるを得ません。

ただ一つ言えるのは、みんなが最後に見せるあの表情が、喜びを噛みしめる瞬間が、とにかくファッキン最高だということだけです。

 

 

映画『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』公式サイト | 2017年2月18日より、新宿シネマカリテほかにて全国公開

 

 ちょっと似てると思ったり

www.amazon.co.jp